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今から約150年ほど前に遷都された平安京。
陰陽道に基づいて造られたその都は外から来る悪霊などから守るには最適な形であった。
しかし、とタケミカヅチは都を見下ろしながらぼやく。
「外には強いが内には弱いというか。内から発生した者らは逃げ場がないなあ。だから悪霊が滞るのではないか」
「言うな、タケミカヅチ。完全など在りはしないのだから」
悪霊と呼ばれる者はそもそも、人間の魂である。
都の外で発生した悪霊は都の内に入れないが、逆を言えば、都の内で発生した悪霊は都の外に出れない。
一度招き入れてしまえば出て行けと言っても出て行けないのである。
日は落ちて、夜。
目的地へ向かう途中、ぞろりとおどろおどろしい雰囲気を持った魂の列がタケミカヅチらの前を通る。
大概が餓鬼(がき)であり、容姿は腹が膨れ、それ以外は骨と皮の醜い姿。
腹が膨れているのは内蔵のせいで、飢えに飢えて、筋力が落ちたから内蔵を支えられなくなっているのだと言われている。
その中で高貴な衣に身を包んだ男がいた。
おや、とタケミカヅチが呟く。
「菅公ではないか」
「……最近、こうやってうろついているらしいのう。じゃが、雷はよもやお前が授けたのではあるまいな」
じとりとウカノがタケミカヅチを見やると、タケミカヅチは肩をすくめ、まさか、と答えた。
「あれの恨み辛みを現したら、雷になったのだろう。自らは平安京に入れぬゆえに、稲妻を清涼殿に落としたのだろうさ」
なんでもかんでも私のせいにされては困る、とタケミカヅチはため息をつく。
今は都の結界に綻びが存在するためこうして出入りしやすくなっているようだ。
さすがに150年も経てば、綻びも生じるであろう。
菅公――菅原道真一行が通り過ぎるのを待って、ウカノらは進む。
内裏を北とみなし、丑寅の方角。
一条戻り橋を通ると何かがいたのがタケミカヅチに見えた。
ははあ、とタケミカヅチは納得した。
ウカノが会わせたい相手というのに見当がついたのである。
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