建御雷神

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たどり着いたのは古びた屋敷。 ウカノが触れる前に、門戸が開いた。 「安倍晴明の屋敷であろう」 「……黙ってついて来い」 的中か、ウカノはただそう呟いて開かれた門を潜る。 タケミカヅチもそれに続いた。 庭は荒れ放題でさながら主を失った屋敷である。 しかし実際はこの屋敷にただひとり、住んでいた。 身の回りの世話をする者はおらず、ただひとり。 だが噂では、この屋敷の主以外に誰かがいるのだという。 「お待ちしておりました」 下女(げじょ)が現れ、頭を下げる。 口笛を吹くタケミカヅチをウカノは睨みつけ、下女ににこりと微笑んだ。 「ハルアキラに招かれたのじゃが」 「主は奥にてお待ちでございます。さあ、どうぞ」 下女に案内され、二柱は屋敷に上がる。 しんとした廊下を歩いた先、少し開けた場所。 中庭に面した場所に烏帽子(えぼし)を被った男がいた。 二柱に気づき、男が笑う。 「お待ちしておりました」 「久しいな、ハルアキラ」 「ウカノミタマノカミ、私はハルアキラではなくセイメイですよ」 「良いではないか」 くつくつとウカノが笑う。 ハルアキラ――安倍晴明はタケミカヅチに向き直ると、頭を下げる。 「お呼びたてして申し訳ございません、タケミカヅチ」 「お前が安倍晴明か」 「はい」 にこりと微笑む晴明。 どうぞと勧められ、縁側に敷いてある茣蓙(ござ)に腰を降ろした。 置いてあるのは酒。 ぱちんと晴明が指を鳴らすと今まで気配すらなかった下女らが現れ、酒の肴(さかな)を運んでくる。 困惑気味のウカノを尻目にタケミカヅチは運ばれてくる肴に目を輝かせていた。 「話があるのではなかったのかハルアキラ」 「もちろんございますとも。まあ、それは置いて」 「ではいただこうか」 晴明が勧めるのをいいことに、タケミカヅチは早速手を着け始めた。 呆れるウカノではあったが、晴明の勧めもあって渋々と酒に手を出す。
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