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今では少なくなってきたが、以前からこういう人間が出てくる。
今まで見えなかったのに、ある日突然見えなかったものが見えるようになるのだ。
博雅はそれに当てはまった。
鬼らは見せようと思えば己の姿を見せることが出来るし、見せたくないと思えば晴明のような陰陽師らにしか見えぬほどに姿を隠すことが出来る。
博雅は今、陰陽師らが見える域まで達したのだろう。
「そういうお姿をされていたのか。もっと、こう、年上を想像していたよ」
「博雅、タケミカヅチは年上だ」
「はははっ」
からからと笑うタケミカヅチに、博雅の杯に酒を注ぐ晴明。
杯に酒を受けながらぽかんと間抜けな表情でタケミカヅチを見る博雅。
――ミカヅチが、笑った
ウカノは思わず安堵する。
最近は醜悪な笑顔しか見ていなかったから、いまのように楽しげに、明るく笑うタケミカヅチを見るのは百数十年ぶりか。
「そうそう、博雅」
「うん?」
「タケミカヅチにも菅公をお鎮めするのにお力添えをいただくことになったよ」
ふ、と博雅の表情が曇った。
そうか、と呟き、酒に口をつける。
先ほどの賑やかさはどこへ、一瞬にして晴明の屋敷は静まり返った。
「すまぬ晴明」
「何を言う、博雅。おれはおれのためにやっているのだ。お前のためではないよ」
は、とタケミカヅチが鼻で笑う。
ウカノは黙ってタケミカヅチのわき腹を突いた。
タケミカヅチが見えるようになった博雅はなぜか、内裏が見たい、と言ったタケミカヅチの案内をすることになった。
ひとりで話すのもあれだろうからと、タケミカヅチは晴明に人間に見えるように術をかけてもらった。
「窮屈(きゅうくつ)だ」
「我慢してくだされ、タケミカヅチ」
殿上人(てんじょうびと)と同じ姿を取ったタケミカヅチは、歩きながら膨れ面を見せる。
いつもは裸足なのに、今は沓(くつ)とやらを履いていた。
着物は重いし、烏帽子(えぼし)は邪魔だしと、文句ばかり。
それでも内裏が見たいと言ったのはタケミカヅチ自身。
渋々と今は博雅の後について回っていた。
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