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優しい眼差し。端整な顔立ち。私よりも背が高くて、無愛想で、そして少しばかり生意気で。
一一私を愛してくれた人。
貴方と私は、お互いの物心がつく頃から一緒にいて、結局大学までずっと同じ時間を過ごした。
明朗な貴方はクラスの中心にいるタイプで、私は深窓でひとり絵を描いているようなタイプで一一それでも私たちは惹かれた。
釣り合ってないなんて、誰に指摘されるよりも前に、私自身が一番痛いほどに理解していた。
貴方は稀代の天才画家。
中学の頃から絵画の才覚を開花させ、獲得した賞は数知れない。まだ貴方は大学生にも関わらず、絵の依頼が来ていたほどで。
貴方が描く風景画は、他のそれを遥かに凌駕した天賦の才。風景をただ投射するだけの写真とは違い、貴方の絵には温もりが宿っていて、幻想が孕まれている。
貴方は孤高の天才画家。
私は絵本作家の卵。
天才の肩書きも付いていなければ絵本作家にすらなっていない。
貴方の描いた絵に感動して、絵本作家を目指し始めたのは内緒。
それでも、練習すればするほどに貴方との才能の違いに気付かされ、どうしようもなく淋しくて。
私は絵本作家の卵になりきれもしない、ただの無能な人間。
そばにいる資格が欲しかった。
貴方の隣で笑うことを、周囲のみんなに認めて貰いたかった。
私が卑下されるのは構わない。ただ、私といることで、貴方が奇異の目で見られるのが悔しかったし、何より辛かった。
私の隣で生きていて一一。
貴方は幸せだったんだろうか。
容姿も大してよくないし、スタイルがいいわけでもない。私たちが釣り合ってないなんて、火を見るより明らかなのに。
「なんで私なの」と私がいつ貴方に聞いても返答は同じもので。
「好きなのに理由は要るのか?」
貴方はそう言うと、いつも私を抱きしめてくれた。私は貴方の胸の中でいつも泣いた。
私は貴方に何が出来ただろう。いつも貴方の優しさに頼ってばかりで、私からは何一つ貴方のためにしてあげられなかった。
一一逢いたい。
返答のような垂れ雪の音。
幼い頃に貴方と共に来た森は、あの頃よりも更に大きく、また幻想的に変わっていて。
ぐらり。
視界が反転する。
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