snow drop - 雪に願いを -

7/7
前へ
/70ページ
次へ
 再び涙が零れる。冷えた私の頬を幾筋もの熱い雫が流れていく。堰を切ったように溢れる涙で、ぼんやりと滲んだ視界。  貴方の姿が判らない。  でも私に触れる貴方の温もりはその存在を確かに証明していて。  最大限の力を振り絞って、喉の奥から声を紡ぎ出す。有りったけの呪咀と、切実な祈りのふたつを混ぜ込んで。 「もっと、もっと一緒にいたかったよぉ……ばか雪斗……っ」  祈りの言葉を発した刹那、急速に風景が奪われていく。  もう何も見えない。  私の世界は、雪に包まれたように真っ白く染まってしまった。 「おい冬綺! 起きろばか!」  貴方の声までもが遠くなり、感覚が世界に置き去りにされる。  あぁ例え幻の存在であろうと、最期に貴方が見られてよかった。  貴方の声が聴けて。  貴方に触れてられて。  私はなんて幸せなんだろう。 「あぁ雪が止んできやがった……冬綺! 起きろっての!」  雪に願ったから、貴方は私の許に現れてくれたのだろうか。それなら、これからずっと貴方を雪に願ってみようかな、なんてことも思ってみる。  きっと私は、もう目覚めないだろうと分かっているのに。  ありがとう。  最期に私の前に現れてくれて。所詮は幻影だとしても、心の底から嬉しかった。  一一雪斗……愛してるよ  上手く声になっただろうか。薄れた感覚では、私の咽喉から声が形成されたのかも判らない。  一一私、死ぬのかな。  曖昧な思考で考えてみる。それも構わないかな、と思った。  なんとなく、このまま貴方のそばに行ける気がして、私は満たされた気分に浸れた。  幼いと蔑めばいい。二十年しか生きていない子どもに、愛など分かるはずなどないと吐き棄てればいい。  それでも私は、貴方を心の底から愛してる。それだけは誰にも否定させない。 「愛してる……雪斗……」  舞い降る風花が私への手向け。例え誰も居ないこんな森でも、貴方がいてくれるならそれでいい。 「愛してる! 何度だって言ってやるから、目を開けろ!」  何度も言って欲しい。  貴方と一緒にいた頃のように。  でも、今だけは眠らせて。  起きたら、またたくさん愛してるって言い合おう。  もう一度、逢いたい。  雪への願いは確かに届いた。  例え幻覚だとしても。  最期の刹那。  私は幸せだった。  最期に見た雪と貴方の顔を脳内に幾度も再生しながら、私の意識は静かに世界と断絶された。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加