響いてた。

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早速カラオケに入った。 「最初はグー!!」 私がいつものようにジャンケンをしようとすると、アキラはそれを無視してさっさと椅子に座った。 「わりぃ。今日は先に歌わせてもらうから」 「え…」 アキラは私の顔を見ずに素早く曲を入れる。 最初なのに、ゆったりとした、キレイなバラードだった。 「・・・・・」 普通なら文句でも言ってやりたいところだけど、アキラ、今日は元気ないから… 何も言えずに、私も曲を入れた。 「はっぴー!はっぴー!今日のーあたしはー」 私が歌う間だけ、アキラは私を見ていた。 楽しそうで、良かった。 アキラは次も、その次も、しっとりとしたバラードを歌った。 私はそれでテンションとか雰囲気が暗くなるのが嫌で、ずっと明るい曲や盛り上がる曲ばかり歌った。 「ねー!今日どうしたの?」 「え…なにがだよ?」 「バラードばっかりじゃん」 「べ…別に良いだろ?」 「・・・・・」 「・・・・・」 「あ!そうだ!次はエキセントリック歌ってよ!」 私が元気づけようと明るく言うと、アキラは首を横に振る。 「いや…今日はそんな気分じゃないから」 「……そっか」 どうしたんだろう? すごく不安で、すごく泣きそうで。 ねぇ、アキラ。 せっかくのカラオケなのに、 もっと笑ってよ。 私がギュッとスカートを握ると、聞いた事のない曲が流れた。 ふと顔をあげると、画面には「アールグレイ」の文字。 題名は「響いて」。 私はその曲を知らない。 借りようてして借りれなかった新曲だった。 アキラは今までで1番、キレイに歌った。 私の心にそのまま、 流れて、 響いてた。 .
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