奇病

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満月の夜。 桜の木のしたで腐りかけの私。 夜空いっぱいの雲が満月のしたを妖しくゆらゆら歩いている。(今夜はなにかあるのですか?) ときどき雲の隙間から月が顔を見せて桜の木を妖しく照らす。桜の木の隙間から漏れた青白い光が私を妖しく照らす。 (夜桜は幻想的ですね。宇宙。永遠を感じる。) 奇病で腐りかけの私。月に照らされ、じょじょに土に還っていく体。 私は虚ろな目で辺りを見回しました。 目の前に長い廊下が見える。 ギシッギシッと廊下を歩く色鮮やかな着物を着た女性が何度も何度もループする。何度も生き返る。 (ここは宮廷の庭なんだな。) しばらくの間、ループする女性を見ていた。 気がつけば私は目だけになっていた。 ゆらゆら雲が歩いてる。 ゆらゆら。 (今夜の夜空は美しいこと。今夜の桜は美しいこと。雲がせわしないのは、一体なんなのでしょうか。) 798年の春。 都では体がじょじょに腐っていく奇病が流行っていました。image=63601841.jpg
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