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春風が木の葉を揺らす
桜が咲くにはまだ早く
生暖かい風が、水面や土の上を優しく撫でてゆく季節
「恋の季節……か」
空は蒼
高校入学を明日に控えた少女は、手を伸ばせば掴めそうな空を見上げ呟いた
―少し、気取り過ぎかな?
四條 那智(シジョウナチ)
幼さの抜けない顔に苦笑いを浮かべ、彼女は胸中でそう加えた
アパートにほど近い土手から見える河川敷
週末には野球をする少年達で元気な声が響く場所も、今はただ景色のままに佇んでいる
「切りそびれちゃったな…」
風に舞う黒髪は肩胛骨辺りまで伸び、那智はまつ毛に届く前髪を鬱陶しそうに掻きあげた
―“願”でもかけようかな
那知には想う人がいる
明日から通う高校も、その人の傍にいたい一心で選んだのだ
親には“上”を目指せと口煩く言われたが
「私の“上”は学歴じゃない」
恋に生き、恋に散る
僅か三年間のブランドのような特別な青春
「“至上”の恋を咲かせてみせる!」
右手に拳を作り、那知はそれを春空に突き上げた
――瞬間
ドッッボォォーーン!!!
「………へ?」
激しい水飛沫と水面の衝突音
あまりのタイミングの良さに、那知は突き上げた拳をソッと下ろした
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