いちばん

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「これまた殺風景な部屋だな」 高校に近く、比較的家賃の安いアパート その2DKの室内を見渡し、開口一番に呟いた七ノ葉 「まだ引越してきたばかり… ――って何で居るのよ!」 あの時 100M13秒を切る俊足で振り切った筈だった ―なのに何故? 服からポタポタと水滴を垂らした七ノ葉が、涼しい顔で横に立っている 「何故だと? ナチの頭はニワトリ以下か? 『一緒に住んでやる』と言っただろ」 さも当たり前 重ねて偉そうな七ノ葉に、那智の怒りパラメーターは跳ね上がり 「だから断ったでしょ!大体、一人暮らしの女の子の家に初対面の男をホイホイと…」 ポタポタポタポタ 「生活費だってギリギリでやっていかなきゃいけない…」 ポタポタポタポタ 「ああ、もう!!床がビショビショじゃない!」 怒りを吐き出したい那智だったが、七ノ葉の足元に出来つつある水溜まりが気になって気になって 「水も滴るいい男」 「黙れ」 キメ顔の七ノ葉にイラッとしながら、那知は部屋に干してあったバスタオルを七ノ葉に被せた 「ちょっとホコリ臭…」 「いいから拭きなさい」 拭きなさいと言いながら、那知はバスタオルで七ノ葉の頭をワシャワシャと擦り上げる 「ナチ、心持ち痛いぞ」 「う る さ い」 ―私、なにやってるんだろ 何だか悲しくなってきた那智だった
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