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ふいに窓の外のカップルが目に止まった。窓越しなので、声は聞こえないが、そのカップルの彼女のほうが、やたら元気にはしゃいでいる。その彼女に春香の姿が重なった。セピアの景色に色が戻る。そういえば、俺と一緒にいるとき、春香はいつもああやってはしゃいでたっけ。
「なんで、由美がここに?」
今度は俺が由美の問いかけを無視して、もう一度、同じ質問を投げかけた。
「春香さん?って子が突然、私の家まで来て。隆がまだ私を好きだから、もう一度、会って話して、チャンスをあげてって」
由美が俺の目を見て話す。もう、俺の胸の高鳴りは消えていた。春香が?なんで春香が俺の中にまだ、由美がいるということを知っているのだろう。
春香との思い出を辿ると楽しい記憶が蘇る。しかし、由美との思い出を辿ると後悔の記憶ばかりが蘇る。それは、付き合った長さも、もちろん関係しているのだろうけど、その時、俺は気付いたんだ。
「ごめん。由美。付き合ってる間、大切にしてあげられなくて」
一年が過ぎた今まで、俺が由美の夢を見続けていたのは、由美が俺の中に存在し続けていたのは、ずっと後悔していたから。思い切り、大切にしてあげ続けることができなかったから。
「そんなことないよ……隆は私を大切にしてくれていたよ。ただ、私が駄目だっただけ。言葉にしてもらえない寂しさで、他の人に気持ちが揺れちゃったから。結局、うまくいかなかったけどね」
由美は笑っていたが、その目には涙が浮かんでいた。その寂しげな目に、気持ちが揺れる。すぐにでも抱きしめてあげたくなる。由美はそんな俺の気持ちにきっと気付いたのだろう。三年も付き合っていたのだから、俺の性格をよく理解してる。
「隆は変わらないね。そんなところが好きだったんだけどさ。同情で愛してるって言われてもうれしくないよ」
由美の頬を涙が伝った。俺は言葉を失った。
「隆が今、本当に愛してるのは誰?」
由美の言葉が心臓を突き刺す。俺の胸は締め付けられる。
「俺は……俺は……」
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