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「隆ちゃん(りゅう)……隆ちゃん」
肩を揺さぶられて目を覚ます。また、夢を見た。別れてから一年が過ぎ、新しい恋人もできたというのに、俺はいまだに由美の夢を見る。二人で楽しくデートしている夢、喧嘩している夢、そして、別れを告げられた時の夢。どれもこれも、思い出のフラッシュバック。夢は映画を見ているかのように、客観的な視点で流れていく。俺はその夢を見るたびに後悔する。何故、あの時、俺は──と。
眠っていた俺の肩を揺さぶり起こしたのは、春香(はるか)だった。春香は俺の今の恋人。
「どうしたの?」
春香が俺の目を見つめる。
「どうしたのって、春香が俺を起こしたんだろ?」
春香はそう言った俺の頬を優しくなぞった。
「なんか、泣いてたから」
俺はハッとする。そして、自分の頬を触ってみた。湿っている。俺は眠りながら涙を流していたようだ。
失恋。俺は由美に別れを告げられた。これを失恋したというのだろうか。恋を失うと書いて失恋。それなら、俺は失恋なんてしていない。だって、まだ、こんなにも夢に見るほど由美が俺の中に在る──
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