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当時の俺は幼すぎたから、夜に謁見したときは睡魔に襲われていた。
だからそのときの王様の話はよく覚えていないが、王様のぎらぎらと輝きを放つ窪んだ瞳だけは今だにたまに夢にでてくる。
夢の中での王様は目もとだけが強い光に照らされて、口元は闇に覆われている。
そんな奇妙な状態で小さな僕を見下げながら、音のない世界で何かをずっと訴えてくるのだ。
この夢をみるときには首を横に振ってはならない。
訴えを拒絶すれば、王様の瞳が俺を追い続けるようになるからだ。
一国を束ねる王の話を聞いて、こんな印象しか受けなかった4歳の子どもを勇者に任命するだなんて、とんだギャンブルにでたもんだ。
でも今思うと、それはある意味正しかったのかもしれない。
子どもでも、伝説の勇者の子孫の存在を世に示せば、味方の士気は少なからず上がる。うまくいけば伝承を知った敵が怯むかもしれない。
あのとき、この世界は人外の未知の種族と戦っていたんだ。
利用できるものは利用しなければ、やっていけなかったのだろうな。
ただ、俺がもう少し人生の経験を重ねていれば、この命令の危険性を理解し、必死に拒否の意を示していただろう。
親戚中で最も幼く、武芸とは縁遠かった男の俺が勇者に選ばれたことにはそんな背景があったのかもしれない。
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