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「カレン、この人は……」
「そうだ、コウちゃんっ」
獅島の声を遮り、身体を押し退け室町が部屋を飛び出す。
「待てっ」
獅島も呼び止めながら必死に後を追い掛けた。
室町は廊下を少し進んで直ぐの部屋に入った。
すると、小さな男の子の声が何度か響き、聞こえなくなる。
「何をしているっ?」
獅島が追い付いた時には、既に室町はその部屋から飛び出そうとしていた。
入口で、2人が鉢合わせになる。
「ちょっと落ち着け……状況を……」
真っ向から肩を掴み、視線を合わせた瞬間。
獅島は言葉を詰まらせ、室町が振り払うままに手を離した。
室町の瞳。
赤々と輝くその瞳は、恐ろしい迄の狂気を浮かべていた。
『愛していた』
先程の室町の言葉が、獅島の頭を過る。
「あなたも早くここを離れた方がいいわ」
獅島の脇をすり抜けながら、室町が言う。
「御神と春河の間に、何かあったのか?」
小さな背中が、その一言を受けて止まった。
暫くの沈黙を経て。
「30分前に電話した時、曹さんは『これから都希雄が来る』って言っていた」
室町が震えながら、言葉を紡いだ。
「家に帰ったら……コウちゃんは寝てて……曹さんは倒れてた……私のせいだ」
「あんたが何をしたっていうんだ?」
頭を掻きむしり始めた室町の手を取り、そうっと呟く獅島。
「私は……春河くんが御神に嫉妬しているのを知ってた……」
室町はそこまで言うと急に鋭い視線を獅島へ向けた。
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