第二十五話:『一秒先は未来』

8/16
前へ
/579ページ
次へ
刹那、空気が歪んだかと思うと、獅島の身体が吹き飛び壁に打ち付けられる。 何とか倒れずに持ちこたえた獅島だが、顔を上げた時には既に室町は家の外へ走り去っていた。 「サイコキネシス……」 その身に受けた威力を噛み締めて呟き、獅島は再び後を追う。 そこでただ一つだけ確信できたこと、『自分自身が過去へ瞬間移動した』ということをはっきりと自覚した獅島。 ここは22年前の世界。 走り去った室町は、写真に写っていた獅島の知る室町花恋と瓜二つだった女性。 そして男性、御神曹と呼ばれた彼は獅島の父親である。 「ってことは、オレは……」 玄関を出た獅島。 海岸線に室町の姿はない。 と、後方に空気の歪みを感じて振り返る。 傾斜する切り落としを挟んだ山々に広がる海辺の街が視界に入る。 そこに、尋常ならざる彩りを加えて―― 「バカなッ」 獅島は口から絶叫を迸らせ、瞬間移動すら忘れ切り落としを駆け上がる。 街の民家や木々は業火に包まれ、道路も大地震でも起きたかの如く無惨に砕かれていた。 その中に埋もれながら、膚を焼き肉を爛れさせもがき踊る人々。 老いも若きも見境の無い虐殺が、阿鼻叫喚を轟かせながら一帯を支配していた。 「カレン!」 最早手の打ち様がない凄惨さに、滝のような汗が噴き出す。 獅島はむせ返る灰と死臭の中を駆け抜けて、街の中央部まで入り込むと漸く綿のワンピースを目に留めた。 「お前……貴女は、室町花恋さんでしょうっ?! もう止めてください、どうしてこんなことを……ッ!」
/579ページ

最初のコメントを投稿しよう!

609人が本棚に入れています
本棚に追加