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うねりを加えて無軌道に炎が街を行き交う。
発火能力で生み出した炎を、念動力で操作しているのだろう。
そうやって燃え盛る一面に立つ背中が、ゆっくりと獅島の方へ振り向いた。
「いいえ……私は……」
罪もない誰かの眼球が、弾け飛んで獅島の足元に転がる。
「私は、御神花恋……になる、筈だった……」
「何ですって?!」
獅島は詰め寄ろうとしたが、凄まじい拒絶の力に一歩も前へ踏み出せない。
距離は僅か1メートル。
その向こうに立つ女性の頬から、雨のように滴が落ちていく。
「でも、曹さんは名のある医師の家系で……私は身寄りの無い、特異な力を持つ女……結婚は許されなかった……」
だけど、彼は私を愛してくれた。
室町は、はっきりとそう告げた。
「見たでしょ、あの小さな男の子……『孔』って言うの、彼が付けた名前……彼と私の子供……」
「何……御神、孔……!?」
御神曹と室町花恋は二人の幸福を許さない社会から逃げ出し、婚姻関係を結ばないまま内縁の家庭を築いた。
そこで、男子を出産し『孔』と名付けた。
幸せな日々を過ごしていたのである。
「でも、曹さんは殺された……何故だと思う? 全部私のせい……! 私が、悪魔と呼ばれる女だから……!」
「止めろッ!」
街を包む火の手は、一層勢い付いていた。
それはまるで、室町の中で燃え上がる憎しみに比例するかのようだった。
「あなたが人を超えた力の持ち主というのは聞いた覚えがあります! でも、お子さんを……私を産んだように、人を愛し愛される心を持っているんでしょう! こんなことをして、御神曹は喜ぶと思っているんですかッ!」
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