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獅島の咆哮に、室町の顔が凍り付く。
と、それまで頑強に張り巡らされていた拒絶の壁が揺らめいた。
すかさず獅島の脇から抜かれた小刀が一閃すると、見えざる壁が両断されて室町への道が拓かれる。
「止めるんだ……母さんっ」
無意識に、獅島はそう叫んでいた。
「今の貴女は、悲しみの矛先を抵抗の出来ない弱者に向けているだけだぞッ! 向き合え……自分自身に立ち向かえッ!」
肩を掴み、室町の身体を激しく揺さぶる獅島。
室町はされるがままに呆然と、目と鼻の先で訴える青年の顔を眺めていた。
刹那。
室町の身体に、激しい電流が流れ火花を散らす。
焼け崩れた電柱が電線を千切らせて室町の身体に触れたのだ。
「母さ……!」
獅島はその瞬間、またも景色が暗転していくのを感じた。
あまりに唐突に、全てが闇へと消え去る寸前。
獅島は痙攣する室町の肩越しに、春河都希雄の姿を見た。
「春河ァッ!」
唸りを上げて拳を握る獅島の身体は、意思に反して再び暗闇の中を飛行する。
「これは……」
ふと、暗闇に眼を向ける。
『時間を越えた』ことを自覚した獅島の瞳は、高速で流れる暗闇が『暗闇ではない』ことに気付いた。
「時間……を……」
暗闇と認識していた景色。
それは、超高速で流れていく時間を映す景色だった。
獅島の『瞬間移動』は、僅かに残った欠片の力で発動し――
「移動しているのか、『瞬間』で……時間の『瞬間移動』……!」
現代の研究の結晶が、更なる奇跡を引き出したのである。
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