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「おぉーいッ! いたぞーッ!」
伸ばした手が光に届いた途端、どこからか誰かの声が聞こえた。
あたしはうっすらと開いた目で、ゆっくりと視線を動かした。
ぼやける視界の中、何人かの大人たちがそこにいた。
ヘルメットをかぶった、いつかテレビで見たレスキュー隊のような格好をした人たち。
知らない人たちばかりだったけど、この人たちは自分を助けに来てくれたのだとわかった。
「発見しました。まだ息はしています」
「助け出せ。いいか、必ず助け出せ!」
土砂を掘り、岩をどけ、懸命にあたしを助けようとする。
そして目の前に、膝を折って、大きくて温かい、あたしが知っている手が、あたしの頬に触れた。
父「しっかりしろ、あやッ! 今……、今すぐ、助けるからな…ッ!」
沙耶「お、とう……さん…」
視界に、父の顔があった。
最後に見た父の驚愕の顔は土砂崩れとともに消え去ったが、父はその顔を泥だらけにして、あたしの目の前に現れてくれた。
お父さんの眼鏡にヒビが入っていて、髪もグシャグシャになっていたけど、父は少なくともあたしよりは無事だった。
父のかけられる声が聞こえる。
あたしは、父の声を聞いて、そして顔を見れて、身体が溶け込むような感覚に落ちた。
安心感が自身を包み、父の声も遠くに聞こえてくる……。
あたしは遠のく意識の中で、最後に囁いた。
沙耶「りき、くん……」
それを最後に、あたしの意識は闇の底に落ちた。
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