Riki.少女の名前

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僕の目の前には、横倒れになったバスがある。 それは、まるで非現実のような光景だった。 崖から転落した修学旅行生用のバスは火の手をあげて燃えている。 そしてその周りには散乱した学生たちの私物やバスの窓ガラス、破片、色々なものが散らばっていた。 僕と鈴は必死にみんなの救助に専念した。 バスが転落して、僕たちはこことは違う別の世界で、僕と鈴が成長するきっかけをもらった。 そして僕たちは強く生きることを誓って、ここに戻ってきた。 横倒れになって燃えているバスの中に残っている人間は一人もいない。 ガソリンに炎が引火するのを止めていた恭介は、みんなの最後にバスから離した。 だけど恭介の身体は予想以上にひどかった。 シャツは恭介の血で真っ赤に染まり、素人が見てもかなりの出血量だというのがわかる。 こんなに血を出しちゃ、死んじゃうんじゃないか……と、僕の背にゾクリと悪寒が走る。 鈴は僕の肩越しからぐったりしている血だらけの恭介を見て、まるで子猫のように震えている。 鈴の「理樹…」という震える声が僕の耳に聞こえた。 鈴「恭介が……恭介が……」 理樹「落ち着いて、鈴。大丈夫、心配しないで」 青ざめた顔で、恭介を見て震えている鈴の肩に手を添えて、僕は鈴の正面から出来るだけ優しく声をかけた。 僕の声にすこしは安心したのかどうかはわからないけど、鈴はとりあえずコクリと頷いてくれた。 そして絞り出す声で、鈴は言う。 鈴「……頼む、理樹。恭介を……助けて…くれ……」 理樹「大丈夫! 僕が助けるよ! 恭介は絶対に助かる!」 鈴「ホント……か?」 理樹「もちろん。だから、鈴。鈴も恭介が助かるように祈ってて。僕も、恭介を助けるから」 鈴「……わかった。神様に……祈る……」 理樹「そう、神様に祈ってて……」 鈴「恭介……ッ」 鈴はぎゅっと手を合わせて、震える声で顔を俯けた。 本当に神様に祈るように、手を込めて、祈り続ける。
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