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僕の声に足を止めた鈴は「わかった」と言葉を残してから、部屋を出ていった。
ドアが閉じられ、僕はまた一人になった。
僕は早速、漫画本が詰まったビニール袋を僕の目の前の布団の上に置いて、中身から一冊の本を取り出した。
そういえば恭介のオススメと言っていた。
僕は期待を膨らませながら、本の表紙を見た。
理樹「学園革命スクレボ……」
その漫画のタイトルは、前に恭介が大好きな漫画として、恭介から聞いたことがあるタイトルだった。
僕は入院生活の間、恭介のオススメの学園スクレボの漫画に読み耽った。
恭介が薦めるのがわかる。
これは本当に面白かった。
どんどん漫画の中の世界に、その主人公のスパイの少女と謎の敵の集団との戦い、そして少女の葛藤は、読者の感情移入を大いに誘った。
だけど僕はこれを読んでいくうちに、まるで本当にその世界に僕がいたかのような錯覚に度々陥られることになった。
なんといっても、このスパイの少女を、僕は知っている―――
僕は最初、この漫画を読み始めたころ、主人公の少女の名前を見た。
『朱鷺戸沙耶』
朱鷺戸沙耶。
トキドサヤ。
僕はこの名前を―――知って――いる―――
あれ……?
ふと、頬に一線の暖かさが伝った。
ちょっと指で触れてみると、指の先が濡れていた。
それは、涙だった。
何故僕は涙を流しているのだろう?
この名前を見た瞬間、僕は泣いていた。
一筋の雫が、頬を伝う。
理樹「沙耶……」
名前を呟いてみると、ますます懐かしい思いが胸の中に満ちていく。
そしてそれが一層の涙を誘った。
一瞬だけ、脳裏によみがえった、少女の面影。
一人の少女。
なにか、大切なものを忘れているような感覚に、僕は理解できなくて、泣いた――
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