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あたしはあの世界で理樹くんと一緒に過ごした。
理樹くんと出会い、理樹くんをパートナーとして、秘宝を求めて地下迷宮を探検し、闇の執行部と戦い、そんな日々。
楽しかった――
理樹くんと過ごせたあの世界。
リプレイを繰り返し、それでもずっとずっといつまでも、理樹くんが好きだった。
大好きだった。
会うたびに、その想いは膨らんだ。
そして理樹くんもあたしを愛してくれた。
あたしも愛してた。
これからも理樹くんと過ごせたらどんなに良いだろうと思ったこともあった。
だけどあたしはわかっていた。
理樹くんがあたしと出会うルートは終わりしかない。
バッドエンドしかないってことは、知っていた。
だってあたしはあのゲームの世界に紛れ込んだ、イレギュラーな存在でしかない。
すでに主人公とヒロインは存在している虚構の世界に、あたしが紛れ込んで、理樹くんを誘っただけ。
元々あの虚構世界は、あたしの生きる世界ではなかった。
何故ならあたしの生きる世界は無いはずだったから。
だから、あたしは理樹くんと、お別れした。
秘宝を生物兵器と願い、終焉を迎えさせたのも、あたし。
あたしは退場する。
そして理樹くんと、さよなら。
一瞬でもあの青春を駆け抜けられただけでも良かった。
ありがとうと言い、あたしはあの世界から退場した。
そしてあたしは……記憶だけを、想いだけをタイムマシンに乗せて、元の現実世界に還ってきた。
あの虚構世界の記憶だけを受け継いだあたしは、なんとか救われた。
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