641人が本棚に入れています
本棚に追加
どちらにせよ、現実世界での幼いころにあたしと出会ったことも、虚構世界で出会ったことも、理樹くんは覚えていない。
ある日、廊下で理樹くんとすれ違ったことがある。
すれ違った理樹くんを一瞥したあたしの目は、一体どんな目をしていたのだろうか……。
あたしはその時を待った。
待ち続けた。
そして、運命の時が来た。
修学旅行で、理樹くんたちのクラスが乗っていたバスが崖に落ちる事故が起きたのだ。
あたしのクラスが乗っていたバスは後続だったから、その光景を目のあたりにすることになった。
理樹くんは、ああやってあの虚構世界に行ったのかもしれない……。
それでも、理樹くんが乗っていたバスが崖下に転落した時、あたしは気が気でなかった。
落ち着いてなんていられなかった。
だからあたしは、緊急に停車したバスから一人降りて、崖下に落ちたバスに向かったのだ。
何ができるかわからない。
たとえそこに行ったとしても自分がどこまでできるのかたかが知れている。
だけど、それでも行きたかった。
止まらなかった。
そしてあたしはそこで――理樹くんと、初めて出会い、言葉を交わした。
理樹くんはやっぱりあたしのことを覚えていないようだった。
つい、ある言葉を言いそうになったけど、これを言ったら理樹くんはきっと困惑するだろう。
だから、ぐっと抑えた。
そしてあたしは逃げるようにして、理樹くんのもとから去った。
理樹くん……
大切な人は――近くにいて――遠かった―――
最初のコメントを投稿しよう!