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あの事故から日が随分と経つと、クラスにもだんだんと以前の光景が戻りつつあった。
みんなは怪我を治して次々と退院し、学園生活に復帰している。
「おかえりー!」
「退院おめでとーっ!」
また一人、クラスメイトが戻ってきた。
先に復帰したみんなに暖かく迎えられ、クラスはこれでほとんど全員が帰ってきたに等しい。
最初は僕と鈴が一番軽傷だったためにみんなより一足早く学園に戻ることができたけど、その時の教室の殺風景な光景は今も鮮明に思い出せる。
鈴と二人で寂しさも乗り越えた今、こうしてリトルバスターズのみんなと過ごす日常が戻ったのも、凄く嬉しいし、楽しい。
そして最後に恭介も帰ってきた。
上の三年生の教室から綱を伝って窓から登場という相変わらずだったけど、それが僕たちのいつもの日常が完全に戻ってきたということを知らせてくれた。
だけど僕はただ一つ、心に引っかかるものというか、気持ちが晴れない部分を抱えていた。
あの病室で恭介から借りた漫画。
その漫画の登場人物の名前。
トキドサヤという名前。
この名前を思い出すたびに、胸がきゅっと締め付けられるような感覚になる。
その名前を呟くものならば、暖かい懐かしい想いの味が染みわたる。
不思議だった。
それは退院して学園生活に戻り、みんなとの日常が戻った後も、ずっと続いたのだった。
あの日、恭介が帰ってきた日の夜、僕は寮で恭介の部屋に行って、あの漫画を返した。
理樹「恭介、これ返すよ。ありがとう」
借りていた漫画とは別の漫画に読み耽っていた恭介は、漫画から目を離して僕のほうに振り向くと「ああ」と微笑んで僕の返した漫画を受け取った。
恭介「どうだった? 面白かっただろう?」
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