Riki.探し物

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それ以上が喉に引っかかるみたいに中々出ない。別に出さなくても良い気がするが、よくわからない。 心無しか、恭介が真面目な表情で黙って、僕の言葉を待っているみたいだった。 理樹「……サヤ……」 その瞬間、名前を紡いだとき、僕の口はぐっと紡がれた。 一拍の沈黙を置いて、僕は首を横に振っていた。 理樹「…ううん、なんでもない」 恭介「……そうか」 理樹「うん、ごめん…」 恭介「謝ることなんてないさ」 恭介はフ、と微笑すると、僕に横顔を向けた。 なんであの名前を言ってしまったのだろう。 自分でもよくわからない感覚に混乱しかけてしまう。 僕はとりあえず、この場から逃げるように去ろうとした。 理樹「そ、それじゃ恭介。また……」 恭介「待て、理樹」 背を向けた僕に、恭介の声が投げられる。 ピタリと足を止めた僕は、「なに?」と恭介のほうに振り返った。 そこにいたのは、腕組みをして、微かに口元を微笑ませた恭介だった。 恭介「理樹、探し物っていうのは案外近くにあるものなんだぜ」 理樹「え?」 恭介「近くにありすぎて、気付かない。だがあるきっかけで、いきなり思い出すこともある」 理樹「……恭介?」 恭介「だから理樹。周りをよく見ろ」 理樹「……………」 恭介「そうすれば、なにもかも解決するさ」 さっきの、恭介の何か言いかかっていた僕への答えなのだろうか。 完全に聞いてすらないのに、中途半端な問いでも、内に閉まった思いでも、恭介は僕に『答え』てくれたのだ。 理樹「……ありがとう、恭介」 恭介「また漫画、なにか読みたいのがあったらいつでも貸してやる」 理樹「うん。それじゃ、おやすみ…」 恭介「ああ、おやすみ」 恭介はきっと漫画の続きを読むことに再開したのだろう。 僕が部屋のドアを閉じる間際、その隙間から見えたのは、再び漫画を読み始めて、無垢な微笑を見せる恭介の横顔だった。 その横顔が隙間に消えて、ドアがバタンと軽快な音を立てて閉じられた。
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