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夢。
そう、それは夢。
あの時に感じた体温も、味も、音も、光景も、そしてあの痛さも……
嬉しかった痛さも、すべてが夢だった。
そして今感じるものが、現実。
夢の中で感じたものとは程遠い、もっと残酷なこの感覚が本当の感覚。
体温はおそろしいほどに冷えて、あたしはまるで氷の中に閉じ込められているかのように寒さを感じている。
血が流れ、さっきまでものすごく感じていた痛さも、今ではもう雨に打たれる寒さ以外に感じなかった。
人生を数えるほどしか生きていないあたしでも、この出血量は致死量だというのはよくわかった。
自分の身体から生気が抜けていくのも。
うっすらと開いた瞳から見る光景は、ひどいものだった。
ぼやけていて、よく見えない。
だけど、恐怖はなかった。
このままでは死んでしまうとわかっても、怖いとも思わなかった。
寒くても、全然凍えることはなかった。
苦しみも、ない。
理由はわかっていた。
あたしはあの夢――いや、あの世界で、もっと温かくて、優しい、そんな世界を知ったからだ。
あの世界に、戻りたかった。
もっともっと、あの世界で楽しく過ごしたかった。
でもあたしはあの世界をクリアしてしまった。
数えられないほどに経験したゲームオーバーではない、最後まで成し遂げた想い。
リプレイを繰り返して、やっと手に入れた終焉。
あたしはそれで良かったと思ったはずだった。
でも……
――忘れられない…!
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