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佐助は、こうして腕の中に居る時、いつも思う。
幸村のように、愛を欲する事が出来れば
感情をあんなに素直に出せれば、どんなに楽だろう。
悲しきかな、これが忍の定め。
愛されても愛せないのに
愛したら愛される事は許されない
それでも、今この一時、夜の逢瀬さえあれば我慢が出来た。
僅か数時間の、短い逢瀬。
それも、ただこうして体を重ねるだけの関係。
けれど俺は、それ以上は求めない。
右目の旦那が、竜の旦那を愛していることを知っているから。
ただ、時々無性に悲しくて、寂しくて、たまらなくなる。
夜伽が済めば、俺が右目の旦那の傍に居た証拠は全て消去され
それが、俺の存在すらも否定されている気がした。
愛して、なんて絶対に言えない。
それを言ったら、今の関係でさえ無くなってしまうから。
ふと政宗の事を思い浮かべ、罪悪感からか小十郎は口ごもってしまった。
罪悪感か、それとも
俺の事を愛してくれてるんじゃ、と微かに期待を寄せる。
「俺は…政宗様をお慕いしている。選ぶなんて出来ねぇし、大体比べるモンでもないだろ。…悪いな。」
ごめん。
心の中で小さく呟いた。
佐助はよく、小十郎を困らせてしまったことと、愛してしまったことを後悔し、心の中で謝罪を繰り返す。
同時に、真田に対しても。
あんなにも愛してくれる真田を欺いてまで、敵陣に乗り込んで小十郎に会っている自分に、自己嫌悪を感じて
それでもせめて、欺き通してやろうと決めた。
その作られた笑顔は、酷く痛々しい。
「うん、わかってる…慣れてるし‥本当に、気にしないで‥っ」
佐助の目から、知らずに涙が流れた。
一度流れてしまえば、もう止まらない。
佐助は小さく肩を揺らしながら、俯いて鳴咽を漏らす。
「あれ?‥平気、なのに‥何でっ、涙出るんだろ‥っ…ごめんね‥ごめん…っ」
泣き顔なんて見せたら、また貴方は困ってしまうでしょう?
でもせめて
今、この時だけは
貴方の腕の中で
貴方の胸を濡らす事を、お許し下さい。
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