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なぁ、あんたは神を信じるかい?
この、平等な世界をやらを創った神を。
「神様? 居る訳ねぇよ」
「えー? なんで?」
「こんな不平等な世界を創ったのが神なら、俺は神を許さないからさ」
「ふぅん。でも、あたしと貴方が出会えたことは、神様に感謝してもいいんじゃない?」
「……ふん、他人(ひと)の女のくせに、よく言う」
「もう、連れないわねぇ。会える時くらい、優しくしてよ」
「……無理なことを言うな、あんたは」
俺は、今一人の女と一緒に海に居る。空が美しい紫色に染まる夜明に、俺らは会っていた。そいつの名前は木下零(きのしたれい)。そして、俺の名前は凛藤冬祈(りんどうとうき)。
俺らの関係は、複雑だ。他人の女に、其れと付き合っている男。
しかも、男の仕事は、普通とは言いがたかった。
「ねぇねぇ、次はいつ会える?」
「そうだな、仕事一つ終わった後だから、二、三週間後ぐらいか」
「そっかぁ。結構大変だもんね、『片割れ』探し」
『片割れ』探し。それはつまり、探偵のような物。但し、探すのは『片割れ』。依頼人の探す、生きていくのに必要な『相棒』または『もう一つの自分』。
「がんばってね」
そう言う彼女の瞳を覗き、俺はふっ、と短く笑った。
「簡単に言うなよ。楽しんでるな」
すると、彼女は笑った。
「あら、バレちゃった? でも貴方のそんな顔、あたし好きだな」
「そりゃどうも。……零、」
「なぁに?」
「俺も好きだぜ、あんたのそんな顔」
彼女は笑って、いつも通りに綺麗な顔を此方に向けた。
「嬉しい」
「……」
そして俺らは唇を相手の其れと重ね、また何事も無かったかのように別れた。
俺達は、決して結ばれない――それでも恋人だったのだ。
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