とりあえずの話

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「……とりあえず、この話がどんな物語かちゃんと説明しないとな」 メタな発言をしまくるが、そこはほら、寛大な気持ちで受け入れていただきたい。 僕は椅子に座る。 文芸部には、二台のパソコンがある。その一台が置いてある机に座り、ワードを開いた。 基本的に僕らはワードを使って文章を書いている。まあ、かじった程度だからクオリティは高くないが。 長編も書くが、大体は短編だ。短編を何個か書いて、まとめて校内で配布する。大会に出る場合は大会用に作り直すが……このメンバーで大会は考えられない。 「空センパイが、文芸部という名のハーレムで淫らな日々を──」 「過ごしてないから」 ボケボケなちびっこ真山桜。桃色のツインテールが特徴的で、僕の天敵とも言える存在だ。 あと、オタクさんである。 「しぃ達、文芸部員の日常を描いた物語ですよね?」 「まあ、そうだけど……とりあえず白来はそのカッターナイフを置こうか」 藍原白来。通称アンド自称「しぃ」。 おとなしく、少し儚げな少女だ。髪は色素が薄いらしく、白……というより銀に近いかな。その髪をセミロングに切り揃えている。 それから、ネガティブですぐにカッターナイフを手に取る癖(癖なのか?)があるみたいだ。まったく……。 「白来、カッターナイフは危険。自分だけじゃなく周りも傷付けるから」 淡々と話すのは挟霧紗々。通称サーシャ。 まあ、少し発言がずれている気がしないでもないが……紗々なりの優しさだろう。 紗々は文芸部女子メンバー唯一の良心とも言える存在で、僕の味方だ。だけどそんな紗々も、桜にいじられたらすぐに落ちることが多い。 クールだが弱点が致命的な紗々。頼りになるとは言い難いんだ……。 「ああもう、とりあえず説明はこんなもんか?」 「空センパイ、『とりあえず』好きですね」 「しぃ、とりあえず死んできます」 「……先輩、とりあえず頑張ってください」 「紗々……諦めたか」 唯一の味方である紗々が、二人を黙らせるのを放棄した。まあ、下手に手を出して紗々まで巻き込まれることを考えたら妥当だな。 さて、とりあえず話を始めようか。 『夜空』本編の少し前。出会ったばかりの文芸部の話でもしよう。 これは、ほんの数ヶ月前の話──
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