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「えーと……ワット、ユア、ネーム?」
「なぜ英語なんですか? はっ、まさかしぃには日本人である資格がないと……?」
何か知らんが、しぃさんとやらは落ち込んでしまった。ますます面倒だ……。
英語で聞くパターンもダメ。銀髪だからクォーターとかだったりするのかと思ったんだけど……違うのだろうか。
とにかく、さっさと名前を聞き出さなければ……。会話の入り部分からつまずいていたら前に進めない。
「だから、キミのフルネームは?」
改めて聞くと、彼女はキョトンとした。
「フルネームですか? なんだ、それが知りたかったのなら早く言ってくださいよ」
「いや、その……えぇ?」
面倒というか、なんだか腹が立つ……。
「しぃは、藍原白来です」
「藍原さんね、了解。で、文芸部にはどういう理由で──」
ピッ。
機械音が鳴った。
何かと思ったら、藍原さんが腕時計を見ている。彼女の時計が鳴ったようだ。一時間おきに鳴るやつか。ちょうど五時だった。
「あ、しぃは時間なので帰ります」
「……え?」
「今日はしぃ、お稽古なのです。遅れたら殺されますから」
……そういう問題じゃない。
「えっと……お稽古があるなら、なんで文芸部に?」
「なんとなくです」
「……あ、そう」
部員候補Ⅰ、まさかの『なんとなく』……これは入ってくれないな。
「じゃあ、お稽古頑張って」
「ありがとうございます。……あ、これあげます」
藍原さんはそう言うと、鞄からなにかを取り出した。
「……カッター?」
それはカッターナイフ。しかも微妙に錆び付いているような……。
「しぃが小学生の時から愛用していたカッターです」
「へぇ……」
だからこんなに錆び付いているのか。こんなになったら切れないから、買い換えたのだろう。
「……でも、なんで僕に?」
「いらなくなったので」
「ゴミ箱扱い!?」
やはりこの一年生はかなり手強かった。
「では、ありがとうございました」
藍原さんはそう言って部屋を出る。
僕は疲れ切って、椅子と融合するかのように座り込む。
すると、足音が聞こえてきた。
それは部室の前あたりで止む。
そして……。
「失礼します」
黒髪ロングの一年生が姿を現した。
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