【文芸部に集う猛者】

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とりあえず僕は、さっきみたいに名前から入ることにした。 一年生を椅子に座らせて、スタート。変人じゃありませんように……。 「えっと、お名前は?」 「はい。挟霧紗々です」 良かった。普通人だ。 「紗々? 珍しい名前だね」 「そうですね……よく言われます」 さっきの一年生といい、最近は凝った名前が流行っているのだろうか。 とにかく今回はスムーズに行っている。上手く勧誘できそうだ。 「僕は八雲空。文芸部の部長だ。残念ながら部員は僕だけなんだけど……」 部活の現状を手早く説明する。うん、いい感じだ。 「で、挟霧さんは……」 「紗々でいいです。呼びにくいのなら名字でもいいのですが……」 「ああ、じゃあ……紗々しゃんっ……!?」 噛んだ……思い切り噛んでしまった。なんだよ紗々しゃんって……恥ずかしい。 紗々さんを見ると、彼女も少し笑っていた。 「ご、ごめん……」 「いえ。『さん』付けで呼びにくいのなら、呼び捨てでも構いませんので」 「じゃあ、紗々で……」 「はい」 さっきの一年生と比べると、先輩想いの優しい子だった。感動してしまうよ……。 満身創痍だった僕の心が癒えていく気がした。 「紗々はどうして文芸部に?」 「文章が書きたかったんです」 「例えば、どんな?」 「そうですね……例えるのなら、『黒の中にある紺』ですかね」 ……ホワッツ? ええと、まだ疲れが取れていないのかな。聞きまちがえたかも。 「ごめん、もう一回言って」 聞き直す。あれは聞きまちがい── 「『黒の中にある紺』です」 ──絶望した。 なに? さっきまでいい調子だったのに、ここにきて意味不明なんですけど? 僕が困惑していると、紗々が説明を加えてくれた。 「『黒の中にある紺』……つまり、注意深く探さないと見つけにくいもの。そんなものを私は書いてみたいんです」 「あ、ああ……日常にありふれていて、とりわけて気にかけたりしないものとか?」 「はい、そうです」 ようやく意味が分かったよ。紗々はなんか……クールで淡々としていて、でも優しくて……なのに何故かズレているような気がしてしまう。そんな一年生だった。
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