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小高い丘の上に来た。
街を見渡すのには十分な高さがある場所だ。
「ここね、私が中学生の頃から、何か辛いこととか、悲しいことがあるたびに来てた場所なんだ」
夕日に染められた街が俺の心に染み込んでくる。
ここから見える景色の中にはたくさんの人がいる。
誰かが誰かを好きになったり、ケンカしたり、時には裏切られたり…
俺もその中の一人なんだろう。
誰かに、こんな少し小高いぐらいの丘の上から見てたかもしれない。
「いい景色だな」
「ねえ、悲しいことでもさぁ、終わってみるとなんだかスッキリしない?」
俺は小さくうなずいた。
ここから見ると、人ってすごく小さい。
俺も浮気した彼女も、そんな小さな存在でしかない。
いろいろな人と出会い、別れて、どこまで大きくなれるのだろうか?
失恋したことも、今では自分の歴史の1ページでしかない。
そう考えていると、さっきまでのクヨクヨした自分に手を振って、別れを告げられる気がした。
今自分が立っている丘がすごく高く感じられた。
「スッキリするかもな……」
短い時間だった。
でもその短い時間で、俺は一歩前に踏み出た。
「悲しみって忘れるようなものじゃないと思うの。悲しみは、心の奥に深く沈んで、見えなくなっちゃうだけなの。
悲しい出来事も、ひとりの人間として成長するための栄養なの。
でも、見えてると心が痛んでしまうから、見えないように心の奥に沈めるの。
この景色見て、悲しみを心の奥に沈めるきっかけができたらな、って思ってあなたを誘ったんだよ」
その時俺は、初めて風間を友達以上に感じた。
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