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朝、いってきますと言い扉を開こうとしたあの人の服を、私は子どものように引っ張った。
行かないで、寂しいの。
口下手な私は、そんな簡単なことも言えず。
彼の袖をくい、と控え目に引っ張るしか出来なかった。
いってらっしゃいと笑顔で見送りに来た筈が、ドアノブに手を掛けた彼を見た途端これだ。何故こうなってしまうのか。
ふわり。
俯いていた私の頬に、暖かい手のひらが触れる。
伝わる熱が心地好い。
彼の手によって半ば強制的に顔を上げさせられた私に、彼は軽く口付けた。
「いってきます、のキス」
帰ってきたら、伊織からおかえりのキスをしてね。
そう言って照れて笑った彼に、私は先ほどまでの寂しさを忘れ、微笑んでいってらっしゃいを告げた。
それが、今朝の出来事。
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