おとり

71/75
前へ
/538ページ
次へ
ジュンは和の言葉を聞いて、止まっていたはずの涙が止めどなく流れ落ちる。 今まで耐えていた気持ちが、一気に膨らんでしまった。 「基地に戻るぞ」 和がそう言うと、皆は表通りに向かって歩き出した。 ジュンだけはその場に残り、壁を背に持たれかかると、涙を止めようとするかのように上を向いた。 裏路地を出ると、和は人影があるのに気がついて一瞬だけ足を止める。 「……来てたんなら、あんたが命令すればよかっただろ」 「残念だが、今来たばかりだ」 和が話しかけると、すぐに返事が返ってきた。 人影の正体は海斗で、皆が出てくるのを待っているかのようだった。 「嘘をつくな」 和はそれだけ言うと、そのまま海斗を横切って歩いて行ってしまった。 海斗は和がもっと反論すると思っていたため、少し拍子抜けする。
/538ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8405人が本棚に入れています
本棚に追加