好きです

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「それでわざわざ届けに来てくれたのか?  ありがとう」 K先生は声をひそめて言った。 私は首を振ってケータイ電話を渡した。 「まだ時間あるか?」 頷くと、先生はちょいちょいと手招きした。 食堂の自動販売機の前で、私たちは足を止めた。 「お礼におごってやろう。  何でもいいぞ」 ポケットから出した小銭を入れながら、先生はわざと威張るように言った。 私は温かい紅茶のボタンを押した。 「あれ?…何もきてないな」 火傷しそうになりながら缶を取り出す私の横で、 先生が不思議そうにケータイ電話をいじっている。 私は、きっとあの先生が見間違えたんだと言った。 「だろうな。…ま、いいか。  それより、それ」 と、先生が紅茶の缶を指差した。 私が首をかしげると、先生は続けて言った。 「ちょっと早いけど、  バレンタインのお返し」 私は紅茶を吹くのを堪えた。 「よかったら、次も懲りずにくれよ。  チョコレート以外なら  何でもいいから」 突然、溶けた決意が新たな何かになったのを感じた。 私は缶を机に置いて、かばんに手を突っ込んだ。 「…来年は違うのにするので、  これ、受け取って下さい」 驚いた顔の先生が何か言う前に、私が先に口を開いた。 「好きです」
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