夢現(菊朝)

4/8
前へ
/555ページ
次へ
対峙する先の彼は、未だ動かずこちらを見つめている。彼も同じ事を思い出しているのだろうか。 じっとしている間に頬から流れる鮮血はいつの間にやら固まり始めていた。     今の自分は彼にどう映っているのだろうか?       血で汚れた軍服に、脂で切れが悪くなった赤い刀。こんな自分は見られたくなかった。もう触れてくれることはないだろう。醜い鬼のようになって全てを壊していく自分を、きっと侮蔑するだろう。         もう絶対に愛しては、くれない―――…         カチャッ       相手が動いた。 震える手を抑えながら、ゆっくりと持ち上げ、大きく息を吐くと躊躇なく構えた。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!

546人が本棚に入れています
本棚に追加