人の重み(菊+バッシュ)

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「銃は人を殺すとき、引き金を引くだけです。たったそれだけで命を奪うことのできる武器です。よく言えば戦場に持ってこい、悪く言えばただの非道で残酷な鉛玉です」   「お前の刀も人を切るものではないのか?」   「そうです。でも重みが違うんです。……刀は直接敵の体に切り込みます。だから人を切る感触や重さ、切られる相手の顔も見たり感じたり、反り血も浴びます。どんな悪党だって同じ人間、同じ生き物が、殺していいなんてことはないのです。だからせめてその人の恨みや、果たせなかった夢や生きられなかった後生を殺した自分が背負わなければならないんです。その人の命の重みを忘れてはならないと切る瞬間に感じるんですよ。私たちは大事な命を奪いながら生きているんです、切るとき全身で、人の命を奪ったと感じられる。だから無駄な殺生はしないと戒めになるんです」     軍人としてでなく人間としての根本を聞いているような気になった。       「でも世の中は便利な物を求める。銃は顔も見ずに、反り血を浴びることもなく嫌な感触を感じることもなく一瞬でたくさんの命を奪える。それが故に、人の命を平気で奪えるまさに凶器になったのでしょう。殺す感触、この道具では分からないでしょう?」   「!?」   諦めにも似た笑顔でバッシュを見た。バッシュは確かにそうだと言わざるを得なかった。
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