愛の証~前編 (朝菊)

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「菊?……どうした?なんか元気ないみたいだけど」  「えっ、いえ。なんでもないです」   心配そうに見やる顔も疑わしく思えてしかたがなかった。     誰にだって優しい人だから。     そんなことを考えていると窺う声がした。   「あ~菊?やっと少し暇ができたんだ。……だからその、今日泊まっていっても、いいか?」   笑顔で、当たり障りなく、はい。………………そう言えればよかったのに。   「………ごめんなさい。今日は予定が」   うそ。予定なんてものあるわけがない。 でも、こんな気持ちでアーサーといたら、本当に嫌われてしまいそうで仕方なかった。   明らかに残念そうに、そっか、と呟くアーサーを見ていたたまれない気持ちになった。   「本当に、ごめんなさい」   顔も合わせず早口にそれだけ言って背を向けた。 向こうも渋々といった感じで帰って行った。     面白くない奴だと思われただろうか。でも、本気になんてしてくれていないんでしょう? 何をしたって感動もなく喜ばない私のことなんてもう、ご機嫌取りも面倒に思っていますか? こんなに想っているのは私だけですか?―――――           ある日の世界会議。 重い足取りで向かった私に明るい声がかけられた。   「菊~!久しぶりだね~元気にしてた?」   「フェリシアーノ君。久しぶりですね、はい元気でしたよ。そちらもお変わりなく」   元気すぎる彼を見てくすくす笑っていると、   「ヴェーやっぱり菊が笑ってると和むね~」   そんな風に言われて、本当に久しぶりに゙笑った"気がした。 その後すぐルートさんがフェリシアーノ君の首ねっこを鷲掴みしてひきずって行ったのでまた一人会場へ向かった。       廊下を一人歩いていたら、話し声が聞こえてきた。近づくにつれて、私の心臓が煩く鳴り出した。     いやだ。これ以上は近づきたくない………! そう訴えていた。 それでも会場へ向かわなければ、という一心で足を動かした。
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