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「…そうなんだ。だから今度その話をしてやろうと思ってたとこなんだ」
「わざわざそれを?いやー悪いですね」
ズキンツ―――
楽しそうに話す彼らの横顔が目に入ると今まで以上に胸が痛んだ。張り裂けてしまいそうで、体中が心臓になったように脈打つ気がして。
熱い、苦しい。
俯いて出てきそうになるものを必死で堪えていたらいつの間にか二人の姿はなくなっていた。
まるで自分だけ取り残された世界にいて、気づいてもらえなかったような気分だ。
それから何日も会議は続いた。その度にアーサーはセーシェルといた。楽しそうに話をしたり、バラの花を送ったり………。
気づけばアーサーと話もしなくなっていた。自分が避けているのか、アーサーが避けているのか。
でもきっとアーサーは今セーシェルに夢中だから気にしていないのだと思う。
仕方ない、そう言い聞かせるので精一杯だった。
何度も通る廊下。いつものように会議が始まる10分前。最近は下を見て歩くことが多くなった。この時間、この場所を過ごす度に気分が悪くなる。吐きたくなる。
「菊……?」
「えっ?」
下ばかり見ていた私は前に立つ人にぶつかりかけた。
「大丈夫か?そんな下ばっかり見て。なんか探しものか?」
「あ……」
久々に見た翡翠の瞳は優しく細められて自分に向けられていた。なんだか懐かしい気もする。
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