愛の証~前編 (朝菊)

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「なんでも、ありません。ごめんなさい、ぶつかるところでしたね」   小さく笑って返した。   「あっ、いや//……べつに、ぶつかったらぶつかったで…いい…ん…だ……///」   赤くなってそっぽを向いてしまう。でも私はその傍らにいつもの少女を見た。   「!?」   一気に体温がひいていく。目も耳も、何も捉えなくなっていく。     ズキンッ―――――       鼓動がおかしくなる。また吐き気を催す。 アーサーの声が遠くに聞こえる。   「――く、………きく?」   「は、い………すみません………私、用事を思い出したので……先に、行っててください…」     返事も待たずに今来た道を足速に戻る。 後ろで名前を叫ばれた気がしたが、振り返ることはできなかった。角を曲がった所で立ち止まった。 誰もいない場所で、一人壁に肩を預けた。     苦しい。もう我慢できない――           そう思った瞬間。 溢れ出したのは涙だった。今まで溜め込んでいたのは紛れも無くそれだった。 とめどなく溢れ出し、頬を滑り落ちる。幾つかは服に、幾つかは床に小さな染みを作っていた。         悲しみも憎しみも愛おしさも………全てが涙となって溢れるが何一つ尽きて楽になるものはなかった。 それどころか益々募る思いさえあった。こんなにもアーサーのことを想っているのに、心はどんどん離れていくような気がして。 散々泣いているのに止まる気配がない。               「菊、かい?……どうしたんだい、こんなところッ………!」   はっとして顔をあげると蒼い瞳と目が合った。その瞬間にその人は言葉を止めて真顔になる。 しまった、と思った時には遅かった。
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