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なぜだか菊は顔では困った顔をしながら、内心安堵していたのだ。引かれる手は困惑した自分に気づいたから差し出されたものだと分かった。
彼なりの優しさだった。
そう思うと少しくすぐったくなって、隣でニコニコ笑うアルに微笑んだ。
言葉にしない、ありがとう、を込めて。
楽しそうに去っていく二人を一人ただ呆然と見ていた。最近見なかった笑顔が他人に向けられている。
どうも最近菊が冷たい。
もともとそんなに甘えてくるとかそんな態度は見せない慎ましやかな人だ。それでもお互いの気持ちが通じ合ってからは、アーサーには恥じらいながら甘えてくれる所もあった。
自分には、特別だと思っていたのに。
会えなくなってから菊の気持ちが見えなくなった。こんなにも好きなのに、目の前にはアルと仲良く笑う菊の姿。その手は繋がれて―――
無性に悲しくなり、苛立った。
自分の菊を取り上げたアルにも、想いの届かない菊にも。こんなに嫉妬深い自分がいるなんて。疎ましいと思われるのだろう。
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