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ある日、アーサーは菊を呼び出した。
会議が終わったあと少し時間をくれ、と言われて菊はアーサーについて行った。
二人きりになった部屋でアーサーが向き直った。
「……菊、
…………別れよう」
「!?……」
あまりに突然の別れ話に言葉が出なかった。
呆然と見やる菊に対し、アーサーは目を合わせずぐっと堪えていた。
思考が追いつかないで、頭の中がぐるぐる廻る。ただ立っているだけの足が微かに震える。
体中が金縛りにでもあったように動かず、ようやく動かせる目がアーサーの手に留まった。
あ…………………
その手には桜色の小さな石がついた指輪が、―――なかった。
代わりに金のリングがはめてあった。
それに気づいた瞬間、一気に思考が巡って、全て、を理解した。
「指輪……してないんですね」
気がつくと口に出してしまっていた。その声は震えていた。
口にしてからやっと悲しみが溢れ出した。
―――――……
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