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アーサーの右手を取って薬指にはめた。
その指輪は菊の指輪と同じ種類で、石は桜色をしていた。透き通る優しい薄い色はまるで
「菊みたいだな…」
「ふふ。そう言ってくださると嬉しいですね。お互いいつでも側にいるみたいで嬉しいです」
「ああ。大事にする。寂しくなったらこれを見るよ」
その日から二人の指輪は愛の証になった。
それが今はもう、ない。
互いの想いが詰まった指輪は外されて。
自分への愛はもうなくなったのだと感じた。つまらない自分にとうとう愛想が尽きたのだと。
辛くて悲しくて会いたくないとまで思ってしまっていたくせに、別れる、の言葉を聞いて比べようもない悲しみが菊を貫いた。
もう完全にあなたとの関わりが切れてしまうのですね。そんなの、嫌です。
離れたくないっ……いつまでも一緒に、側に、いたいですッ……!!お別れなんて、嫌……!!
けれど……しかたがないことなのですね。だって誓ったのですから、あの日。
せめて笑ってお別れしたいです………
知らぬ間に溢れ出した涙が目の前を揺らす。決心して顔をあげたのにどうやら涙は収まってくれないようだ。それでもめいいっぱいの笑顔で彼を見た。
うまく笑えていますか?
「分かりました。邪魔になるくらいなら、別れます。………今まで、楽しかったです、お世話に…なり、ました……」
途切れ途切れになりながら最後まで言い切った。
その時見上げたアーサーの顔は悲しい色をしていたのは目に溜まった涙のせいだろうか。
耐え切れなくなって、お辞儀をして出て行った。
バタン、としまった扉の音がやけに大きく響いて。
まるでアーサーの心の扉から閉め出されかのようで辛かった。
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