愛の証~前編 (朝菊)

12/16
前へ
/555ページ
次へ
アーサーの右手を取って薬指にはめた。 その指輪は菊の指輪と同じ種類で、石は桜色をしていた。透き通る優しい薄い色はまるで   「菊みたいだな…」   「ふふ。そう言ってくださると嬉しいですね。お互いいつでも側にいるみたいで嬉しいです」   「ああ。大事にする。寂しくなったらこれを見るよ」  その日から二人の指輪は愛の証になった。                     それが今はもう、ない。 互いの想いが詰まった指輪は外されて。 自分への愛はもうなくなったのだと感じた。つまらない自分にとうとう愛想が尽きたのだと。   辛くて悲しくて会いたくないとまで思ってしまっていたくせに、別れる、の言葉を聞いて比べようもない悲しみが菊を貫いた。     もう完全にあなたとの関わりが切れてしまうのですね。そんなの、嫌です。 離れたくないっ……いつまでも一緒に、側に、いたいですッ……!!お別れなんて、嫌……!!     けれど……しかたがないことなのですね。だって誓ったのですから、あの日。 せめて笑ってお別れしたいです………         知らぬ間に溢れ出した涙が目の前を揺らす。決心して顔をあげたのにどうやら涙は収まってくれないようだ。それでもめいいっぱいの笑顔で彼を見た。   うまく笑えていますか?     「分かりました。邪魔になるくらいなら、別れます。………今まで、楽しかったです、お世話に…なり、ました……」   途切れ途切れになりながら最後まで言い切った。 その時見上げたアーサーの顔は悲しい色をしていたのは目に溜まった涙のせいだろうか。     耐え切れなくなって、お辞儀をして出て行った。 バタン、としまった扉の音がやけに大きく響いて。 まるでアーサーの心の扉から閉め出されかのようで辛かった。
/555ページ

最初のコメントを投稿しよう!

546人が本棚に入れています
本棚に追加