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突然言い出したから、隣でお茶を飲んでいたアーサーはむせ返った。
「ゲホッ……な、なに言い出すんだ急に!」
「すみません。でも邪魔にだけはなりたくないんです!かくなる上は別れることも覚悟…」
力んでいると、ぽん、と頭に手が置かれた。
驚いて振り返ると呆れた笑みを浮かべて優しくアーサーが言った。
「ないよ。邪魔になるなんて、そんなこと…逆に!菊にはもっと頼ってほしい」
優しく細められた目に、大きく温かい手に、恥ずかしくなりながらそっと頭をアーサーの肩に預けた。
―――――――……
あくる日、重い体に鞭打って起き上がった。
散々泣いた。
だからきっと酷い顔になっているにちがいない、と手鏡を見ると思ったほどでなくて安心した。
久しぶりの休みの日だったのに嬉しくない。
こんな鬱々とした時こそ働いて忘れたいのに……。
仕方なく部屋の掃除をし始めた。
いつものスタイルに着替えて縁側の拭き掃除をし始めた。不意に頭をよぎったのは、この縁側で「あの覚悟」を決めた時のこと。アーサーの優しい笑顔。
「……」
はかどらず場所を変えてみるが、居間では初めて会った日のこと、衣装箪笥の整理では夏祭りに着付けをしてあげたこと。
どこに行ってもアーサーとの思い出で溢れていて、紛らわすことができなかった。
自然と涙が溢れる。
我慢していたのに、こんなにもアーサーでいっぱいで、アーサーが好きだと改めて自覚してしまった。
しゃがみ込むと、ぽち君が心配そうに擦り寄ってきた。
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