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頭にちらついた別れの日の顔。涙いっぱいになった顔でいつもの笑顔をしようと努力していた別れ際。
最後の最後まで自分に心配かけないようにしてくれていたのか。
開放感からの嬉し涙だったのか。
「今アルフレッドのとこの病院にいるらしい。ストレスからくる胃炎だとかって……」
あまりのショックに内容の半分も聞こえない。
「なにぼけっと突っ立ってんだよ!行ってやれよ」
フランシスが肩を揺する。
今すぐにでも行きたい。
しかし、どこか心の内で悩んでいた。
自分が行ってどうなる、と。
――ガラッ
「………?君か…」
「……」
迷った揚句、来てしまった。
けれど、いざとなると一歩が踏み出せない。
単に合わす顔がないから。
しかし、声を出したのは菊の傍に腰掛けていたアルだった。アルは少し躊躇いながら笑った。困ったような、そんな顔。
「……何してるんだい?見舞に来たんだろう?」
入って来いと手招きするが、アーサーは下を向いたまま動かない。
「……」
「菊なら眠ってるよ。……大事には至らなかったって、よかったよ」
「……」
「ふ~ん……思い当たるのかい?」
「!」
突然話題が変わったことに、アーサーは顔をあげた。
図星だろう、と言うような顔で笑った。また困ったように。
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