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「最近君たちおかしかったもんね。……結構前だけど、菊、廊下で泣いてたんだ」
「!! 泣いて……?」
「その頃からおかしかったのに気づいたんだ。君は?いつ気づいてあげた?………………もしかして、気づかなかった?」
「!?」
真剣味を帯びた問い掛けに息が詰まった。
泣いてたなんて、知らなかった。
様子はおかしかった。話し掛けても上の空な返事、誘いも断られることが多くて、何より会話自体がなくなっていた。
自分の不甲斐なさに今やっと気づいた。
「菊、一人でいろいろ抱えてたみたいだよ。俺が気づいて相談にのろうとしても結局、大丈夫とかってはぐらかされちゃったんだけど。…………………俺じゃ、やっぱりだめってことさ」
アーサーの肩をぽん、と叩いて病室から出て行く。
そのまま静かにドアが閉められた。
アルが出て行って部屋には沈黙がおりた。
しばらく迷ってからベッドに近づいた。そして菊の眠る傍らに腰掛けた。
久しぶりに見つめた菊の顔は白かった。いつもの笑顔の時よりずっと血の気がなかった。腕からは管が通って点滴に繋がっている。
自分が側に寄ればいつも微笑んでくれたその人は、今は深く眠って笑いかけてはくれない。
黙ってその姿を見ていると、右腕に目が留まった。
右手薬指にはめられた自分の瞳と同じ翡翠の石がついた指輪。
「……!!」
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