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やっとの思いで見つけたが迷った。
じっとして指輪を見つめるアーサーがじれったくなってセーシェルは早く行くように背中を押した。
きっとセーシェルには分かったのだ。その指輪が誰からのものか、アーサーが誰を想っているのかも。
意を決してアーサーは走り出した。言わないで後悔するくらいなら、伝えたい。どんなに格好悪くても情けなくても………このまま菊と離れたくはない。
菊は目覚めた。
眩しく照らす気配に意識が戻り、うっすらと瞼を開ける。ずっと暗闇だったので外の世界の光に眩しさを覚えた。暫くして目が馴れて睫毛を起こす。
見覚えのない景色だがあまりの驚かなかった。
そんなことよりも体の怠さの方がよっぽど勝っていたからだ。
ゆっくりと窓の方に視線を移す。夕暮れ時だった。明るく暖かい光は菊に差しかかっていて、眠る前の荒んだ心を溶かすようだった。
(あぁ……)
思い出した。
忘れてたしまえたら楽な現実。
――もう、アーサーさんには……
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