§厳かに、それは

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カリカリ、カシャン。俺の部屋にいつもどおりのシャーペンの走る音が鳴り響く。 色とりどりの参考書が偉そうに胸を張って机を占領する。いついれたのか、ミルクが分離してしまったコーヒーが湯気もたてずに横で居座る。 そんな、笑えるほどに何等変わらぬ一日が、今日も俺の前を流れていた。 皆目検討のつかない単語の羅列の相手をし始めたのは、まだ太陽がのぼりきらぬ前。 もう、ゆうに半日は格闘しているのではないか、と思うと急に目の前が霞んできた。 思わず、ため息という名の禁じ手を発動しかけた俺の脳に、切なさを感じる心の臓は、とうにどうかしてあるのだろう。 壁に掛けてある無駄に洒落たデザインの時計に目を滑らせれば、もうとうに正午なんざ過ぎていることに気が付いた。 あぁ、やっぱり。 細い眉じりがくしゅんと下がっていく自分に、笑えた。 カチ、コチ、カチ、コチ。暖かみのない、無機質な音が嫌に耳につく。 冷たい音だと思った。 どうも俺の脳はヌクモリ、という奴を猛烈に欲しているらしい。 ふいに、俺の頬の上に、ある感覚がよみがえる。 数ヶ月前のあの、シルクのようなそれでいて弾力を持った、それ。 無意識にその行為を求めていた自分に改めてきづく。
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