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「……今、願いが一つ叶うとしたら、貴方は何を願いますか?」
何となくつけたテレビの中で、ショートカットのお姉さんが微笑んでいる。
明日、大流星群が地球の上を飛ぶらしい。ブラウン管の中で、流れ星に纏わるふざけたジンクスが流れる。
「願い事、ねぇ。」
規則正しい時計の音が微かに響いている。返事は、ない。
まぁ、この家には俺しか居ないわけだから、当たり前な事ではあるのだが。
願い事。最後に考えたのは、何時だっただろうか。
特にすることもないので、少し物思いに耽ることにする。
確かあれは、中学生の頃。青春真っ盛りの俺も、彼女というものを持った。
流星群がこの地球で光る日に二人で家を抜け出して。駆け落ちみたい、なんて笑って。
見上げた空は、さながらダイヤモンドを敷き詰めた絨毯のよう。
指を絡ませて、唇を重ねれば漏れる熱い吐息。
ガキ臭いフレンチキスを何度もかわして、温もりを夢中で分け合った。
その刹那。二人の上に白いラインが広がった。
『みっくん。あの流れ星にお願いしよ?ずっと一緒に居られるように……』
ドクン、と心臓が脈を打つ。ほてった頬が、熱くて堪らない。
俺は、カッコイイ彼氏でいようとすることも忘れてただ必死に、祈っていた。
恐ろしいほどに美しい、その儚げな存在に全てを託して――
瞼を開けて、時計を見ればもう11時。ニュースはとうの昔に終わったようで、賑やかな笑い声が場違いに響いていた。
過去へ思いを馳せるなんて、らしくない。
妙な脱力感に襲われ、再びベッドに沈み込む。
――違う。俺を包み込む、あの華奢な体は、こんなに固くない。こんな匂いじゃない。
一つ思い出せば、次々に蘇るあいつの記憶。
今や、あの優しい林檎の香水の香りまで明確に思い出してしまう。
唯一、俺が涙を零せる場所だったあいつの腕の中。
守らなきゃいけないのは俺のはずなのに、どうもあの腕で包まれると、涙腺が緩んでしまう自分。
情けない、と実感しながらも全てを投げ出して、泣いていた。
そんな時、あいつは言うんだ。
『たまには、ね?』
畜生。思いだしちまった、じゃねえかバカヤロー。
頬を濡らすその滴は、俺の心を乱し続けるあいつのせいにしておこう。
「たまには、ね。」
震えて掠れた情けない声に、知らんぷりをして、俺は再び目を閉じた。
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