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むしゃくしゃしていた。私は、とんでもなく。
どこかで耳にした通り魔の科白を口にしながら、暗がりの夜道を歩く。
こおろぎが唄う、秋の音色さえ、今の私には苛立ちを増幅させる物にしか成りえなかった。
そうだね。何にいらついてたんだろう。
自問自答を繰り返す。私の悪い癖が、始まる。そんな私をどこかで冷ややかに眺めるが潜んでいた。
季節外れのたんぽぽが暗闇にその黄金を映えさせている。私の黒いブーツの踵が、それを黒く染め上げる。
「気付いちゃったんだね。」
高めのソプラノが、路地裏に吸い込まれていく。
後に残るのは、濡れた唇だけ。
そう、私は気付いちゃったんだ。
この世は所詮――
今まで、必死に抗っていた。強いものに、そして自分のプライドを汚すものに。
でも、その度に蹴落とされた。自分に嘘をついて、無理矢理立ち上がって、また抗う、それの繰り返し。
嘘は必ず破れてしまう事も分かってたのに。振りかざす物の脆さも分かってたのに。
やっぱり、全部壊れちゃった。信じた物、全て。
でも、生きなきゃ。簡単にこの物語に終止符は、打てない。
嘘と諦めで動く私は、この世で一番、滑稽だった――
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