Ⅰ.幼い恋

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タバコの煙が薄く漂う部屋。   ノートの上をひたすらに走る鉛筆のこすれる音、紙の上を滑る筆の音。 墨独特のにおいが満ちる。   部屋には5歳くらいの子供から、 40歳を越えた女性までいる。   皆、正座をして真剣な表情で それぞれ与えられた課題をこなしていく。   そんな中私は、事務机の横に立っていた。   机にむかい、くわえタバコをして 私が書いた字をじっくり見ている眼鏡をかけた男性。   私はただじっと 彼が話し出すのを待っていた。     「うん、かっちゃん今日は終わり。帰っていいよ」     ニッコリと笑う彼は、 私が通っている習字教室の井上先生。   一見、怖そうだが、 本当はおもしろくて誰にも優しい人。     「じゃあ片付けます」     私も笑顔でこたえる。
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