Ⅰ.幼い恋

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私が井上先生が開く教室に通うことになったのは、5歳の時だった。   当初、教室には3歳上の兄だけが通うことになっていた。 体験のため教室にむかう日、 母親はまだ小さい私も連れて行った。   教室に入り、なるべく邪魔にならないようにと、 母親に隅へと追いやられる私。   先生がそんな私に飴をくれ、 自分が座る椅子に私を座らせた。     「おえかきしてていいよ」     優しい笑顔で言う先生。 私は渡された紙と鉛筆で 絵を描き始めた。   しばらくすると先生が兄のところへ行ったので、 後ろをついて行く。   兄は緊張した顔。 だが、与えられた課題のノートに字を書いていく手は真剣だった。   そんな兄の様子を見て、先生は母親と何か話し始めた。 母親と先生が話をして、 兄は真剣に字を書いている。   構ってくれる相手がいない私は、 さっきもらった紙と鉛筆を持って兄の横に座る。   兄のノートを覗き込み、 兄の真似をする。 覗き込んでは真似てを繰り返す私。   1時間経った頃、兄の課題が終わり帰ることに。 私は母親に、描いた絵と 書き上げたばかりの字を見せる。   それに母親は驚いた顔をしたかと思うと、 次は笑って私に耳打ちをする。 私は言われた通りに紙に字を書いていく。    片付けが終わり教室を出る前に、 先生に挨拶をする母親。   私は先生に2枚の紙を渡す。   1枚は先生の似顔絵。 もう1枚は『ありがとうございました』と書いた紙。 先生は笑顔で受け取ってくれた。   それから1週間後、 兄と私は正式に教室に通うことになった。
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